下町酒場はしご酒~江戸川のディープな居酒屋巡り
日本酒ラベルはイコンだ
最近の日本酒ラベルは、白地に力強い墨文字を一筆載せただけのものばかりで、何とも味気ない。
日本酒が「品質の時代」に入り、少量生産風の地味なラベルの方が高級で本物らしく見えるのだろう。書家に筆文字を依頼したりもしているに違いない。
だが、その流れの中で、日本酒ラベルに本来いちばん大切だった要素が、すっかり姿を消してしまった。
それは、聖人像やレトロな図像として描かれてきた「イコン」としての象徴性である。
伝統的なクラシックラベルは、日本古来の万物信仰や縁起譚、さまざまな物語を巧みに取り込みながら成り立ってきた。
めでたさを表す意匠、龍や鯉の出世のモチーフ、恵比寿や大判小判に託した商売繁盛のモチーフ、さらには郷土の山河。
こうした図柄が、日本人の大衆的な美意識にもとづく表現として、華やかに、そして伸びやかに描かれてきたのであり、その世界は本来すばらしいものなのだ。
こうしたラベルのデザインは、大家と呼ばれる画家や一流デザイナーには決して生み出せない。
なぜなら、そこに宿っているのは作家の個性や特別な才能ではなく、何百年ものあいだ日本人の大衆の中に連綿と受け継がれてきた、作者不詳のアノニマスな美意識だからだ。
名もなき人々の感覚が、無意識のうちに手を動かし、かたちになったものなのである。
日本酒のクラシックラベルを眺めていると、私たち自身がどこかに置き去りにしてきた日本人の情念や美学、粋や洒脱、艶冶、侠気といったものが、驚くほど鮮やかに立ち上がってくる。
それはもはや小さな奇跡と言ってよく、だからこそ、うかつに有名デザイナーなどに依頼して、安易にデザインを刷新したりしないことを、ただただ祈るばかりである。

↑群馬 / 島岡酒造の地酒(群馬泉)

↑新潟 / 武蔵野酒造の地酒(スキー正宗)

↑新潟 / 丸山酒造場の地酒(雪中梅)

↑滋賀 / 平井商店の地酒(浅茅生)

◆この記事を書いたひと
酒場ライター:居酒屋伝道師・池波和彦
東京生まれ東京育ち。酒場巡りを趣味とし、北は北海道の離島から南は沖縄の離島まで新規9000軒以上の店を巡りブログ「日本の酒場をゆく」を執筆。毎夜全国の居酒屋やバーにて神出鬼没の酒戦の日々を過ごす痛飲派。
ブログ「日本の酒場をゆく」↓
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