下町酒場はしご酒~江戸川のディープな居酒屋巡り
風に吹かれて小旅行~勝浦編
外房の勝浦は、東京に暮らす者にとって格好の近所の田舎である。
東京駅から特急わかしおに乗れば、およそ1時間20分。そこには都会とはまるで質の異なる海の気配があり、町の佇まいがあり、人の情があり、漁師料理と郷土の味がある。日帰りでもよいが、できれば一泊したい土地だ。
二人までの小旅なら、電車がいちばん気軽で財布にもやさしい。
夏なら昼すぎに着いて、そのまま海へ向かえばいい。御宿の月の沙漠の浜はよく知られた海水浴場で、陽の高いうちから海の気分に浸れる。
昼は御宿で寿司をつまむのもいい。
地魚に土地の季節がのる。伊勢海老は時期により禁漁もあるが、解禁の頃にはその土地らしい握りにありつける。好物ほど、食べ損ねたときの口惜しさが残るものだ。
勝浦に入ったら、遠見岬神社にも足を運びたい。
石段を上がった先からは港町が見晴らせ、潮の町らしい信仰の気配が漂う。海を守る祠が静かに据えられ、青い榊と白い紙垂がきちんと整っているのを見ると、この場所が今も人の手で守られていることがよくわかる。賽銭を納め、ひとつひとつ丁寧に手を合わせてゆく人の姿もまた、土地の風景の一部である。
日が落ちたら、楽しみは居酒屋だ。
勝浦に泊まるなら、食事は宿で済ませず素泊まりに限る。夜は町へ出て、店を二、三軒はしごするくらいがちょうどいい。その町を知るには、居酒屋ほど手っ取り早い場所はない。
漁師町の酒肴は、やはり強い。
サザエ、カツオ、伊勢海老、なめろう、さんが焼き。海の町の味には飾りがなく、そのぶん旨い。居酒屋の灯の下でそういう皿に向き合っていると、旅は宿ではなく町の中にあるのだと思えてくる。さらに気の利いたバーが一軒あれば、夜はぐっと締まる。漁師町にバーがあるというだけで、もうその町は侮れない。
翌朝は朝市へ。
勝浦の朝市は長い歴史をもち、土地の日常がまだ色濃く残っている。観光地然としすぎないところがよい。並ぶ魚、海藻、野菜、塩辛を眺めているだけでも飽きず、気に入ったものを少し土産に買うのも朝の愉しみである。
朝飯には勝浦タンタンメンが似合う。
赤い汁の辛さは見た目どおり骨があるが、ひき肉の旨みと玉ねぎの甘みがそれをただの刺激で終わらせない。海仕事を終えた体を内側から温めるために育った味だと聞けば、なおさら腑に落ちる。辛さに汗をかき、水をあおり、それでも箸が止まらない。そういう一杯である。
夏の海辺には、いつも少しばかり昔を思い出させる力がある。
サーファーたちが浜へ向かい、潮風が通りを抜けてゆく。勝浦という町には、うまいものや景色だけではない、昔の記憶までそっと連れ戻すような旅情がある。
「勝浦のひと」の二番の歌詞がいい。
今朝の朝市賑わう中を
君は離れて歩いてた
海の上なら肩寄せ合える
人目を避ける事もいらない
口づけ交わせば切なくなるけど
好きだ好きだよ勝浦のひと・・・
大和龍二「勝浦のひと」より引用(作詞 つじ伸一/作曲 藤田たかし)

↑房総の郷土料理さんが焼き

↑外房の名物の1つサザエ

↑辛いがやめられない「いしい」の勝浦担々麺

↑夜の勝浦駅前

◆この記事を書いたひと
酒場ライター:居酒屋伝道師・池波和彦
東京生まれ東京育ち。酒場巡りを趣味とし、北は北海道の離島から南は沖縄の離島まで新規8000軒以上の店を巡りブログ「日本の酒場をゆく」を執筆。毎夜全国の居酒屋やバーにて神出鬼没の酒戦の日々を過ごす痛飲派。
ブログ「日本の酒場をゆく」↓
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