下町酒場はしご酒~江戸川のディープな居酒屋巡り
春は貝がおいしい
寒気もやわらぐ三月ともなると、家の外へ、居酒屋へ出たくなる。
春の便りはまず「貝」から訪れる。青柳の橙色の舌切りを酢味噌であえた「ぬた」こそ春の到来であり、三月桃の節句に蛤をいただくのも春の行事だ。二枚貝は同じ貝でないと殻が絶対に合わないことから女の貞節を表すのだそうで、地ものの蛤も高価になったものの、やはり一度は味わっておきたい。浅蜊はさっぱりとニンニクバター炒めにし、ふくらんできたシジミは醤油漬けにする。もう少しすると熟女のごとき「赤貝」が登場するが、この剥き立てこそ貝好きを泣かせる味である。
春の魚は煮魚がよく、その真打は「メバル」だ。丁寧に小骨を拾ってつつく楽しさは格別である。春を告げる「ニシン」の若いのがあがったらぜひ焼き魚でいただきたいもので、まだ脂は浅く、焦げ香がよく合うのだ。この時季だけの「イイ=飯=卵」を抱いた「イイダコ」煮は関西が本場である。
春の野の味は苦味がポイントで、「フキノトウ」の味噌焼きの香りはたまらない。山からは山菜が届き、わらび、しどけ、たらのめ、こごみなどの神聖な「山の気」は、安易に天ぷらにせずぜひお浸しで味わいたい。
酒は寒仕込みした酒の初しぼりが出る新酒の時季を迎え、この生酒のぬる燗はたまらない旨さである。
春は、酒も肴も「幼さ」を愉【たの】しむ季節。鹿児島から近畿、中部と上がってくる「筍前線」を追いかけるのも、春恒例の楽しみだ。
↑赤貝のぬた「春の京都にて」
↑珍しいツキヒ貝「春の鹿児島にて」
↑ハマグリの酒蒸し「春の福島にて」
↑新たけのこの若竹煮「春の東京・門前仲町にて」

◆この記事を書いたひと
酒場ライター:居酒屋伝道師・池波和彦
東京生まれ東京育ち。酒場巡りを趣味とし、北は北海道の離島から南は沖縄の離島まで新規9000軒以上の店を巡りブログ「日本の酒場をゆく」を執筆。毎夜全国の居酒屋やバーにて神出鬼没の酒戦の日々を過ごす痛飲派。
ブログ「日本の酒場をゆく」↓
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